アカシジアは静座不能症と訳されていて抗精神病薬、抗うつ薬、 一部の胃腸薬などから引き起こされる副作用です。
アカシジアとは?
体や足がソワソワしたりイライラし、座ったままでじっとし ていられず、動き回るという特徴があります。
足がむずむずする、じっと立っておれず、足踏みしたくなるなどが見られます。
大抵は、服用を始めて数日後に出現しま すが、数カ月間以上同じ薬を飲み続けた後に出現する場合もありま す。
この症状を元々ののメンタル疾患による症状だと勘違いしてしまうことは危険です。
症状の悪化だと思い込み勝手に服用中の薬をたくさん飲んでしまうなどした場合悪化する危険があります。
うつ病や双極性障害などの気分障害、統合失調症では、複数の抗精神薬を処方される事が多い為注意が必要です。
また制吐薬と抗潰瘍薬、向精神薬などの相互作用にも注意が必要です。
アカシジアの症状
自覚症状は手足や体全体を動かしたいという強い衝動に駆られるもので足の裏やお尻がむずむずして
ソワソワ、イライラ、座ったままでじっとしていられないが、歩き回ったり、足を組みかえたり、貧乏揺すりなどをすると軽減します。
これが悪化して自身で制御できなくなると運動亢進症状
(下肢の絶え間ない動き、足踏み、姿勢の頻繁な変更、目的のはっきりしない徘徊=タシキネジア)が
客観症状として認められるようになります。
また心拍数の増加、息切れ、不安、不穏感等も見られる事も多いです。
アカシジアに伴い焦燥感、不安、不眠などの精神症状が出ることもあります。
苦痛により、自傷や自殺を図る場合もあるため注意が必要です。
逆に軽症の場合、異常行動として周りが認識しない為、本人自身も元々じっとしているのが苦手だからと気づけない事もあります。
アカシジアの発症時期による分類
アカシジアは発症時期により、急性アカシジア、遅発性アカシジア、離脱性アカシジア、慢性アカシジアに分類されます。
急性アカシジアが最も頻度が高く、原因の薬の使用開始や増量後、中止後6週間以内に現れます。
使用開始後3か月以上経ってから発症するものを遅発性アカシジア、
3か月以上薬を使用して、その中断により6週間以内に発症するものを離脱性アカシジア、
アカシジアの症状が3ヶ月以上続くものを、慢性アカシジアと言われる事が多いです。
アカシジアのメカニズム
アカシジア(akathisia)は、錐体外路症状(EPSという)による症状でドーパミンD2受容体拮抗作用を持っている抗精神病薬による副作用として出現するわけですが
作用力が強い薬物ほどこの症状が出現しやすくなるといわれています。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬などの依存薬物の離脱の際に生じる身体的な症状でもあるアカシジアは、
神経伝達物質のノルアドレナリン(攻撃、覚醒を制御する機序に関している)の濃度増加によることが指摘されています。
急性アカシジアは他の錐体外路症状とは異なり、運動亢進症状と強い不安、焦燥感、内的不隠という精神症状があります。
そのメカニズムも他の錐体外路症状が黒質線条体系と関連するのとは異なり、中脳辺縁系や中脳皮質系のドパミン遮断作用が原因と考えられています。
アカシジアに効果がある薬の作用の仕方から、アカシジアの病態を考える仮説もいくつかあります。
ベンゾジアゼピン系薬の効果からは GABA 系機能の低下によるもではないかという説が、
プロプラノロールなどのβブロッカー等の効果からノルアドレナリン系機能の亢進
によるものとする説が提唱されています。
他にも血清鉄の低下、糖尿病、その他の神経伝達系の相互作用が関係していると考えられており
最終的には大脳基底核回路の機能不全によりアカシジアが発症すると考えられています。
遅発性アカシジアは、抗精神薬の長期服用による後シナプスの感受性亢進が原因と考えられています。
原因となる薬
様々な薬が原因となります。
抗精神病薬
ハロペリドール(セレネース・リントン)、リスペリドン(リスパダール)、アリピプラゾール (エビリファイ)、ピモジド(オーラップ)、トリフルオペラジン(ヨシトミ・ミツビシ)、ペルフェナジン(PZC)、プロクロルペラジン(ノバミン)、ブロムペリドール(インプロメン)、チミペロン(トロペロン)、アセナピン(シクレスト)など。
抗うつ薬~SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
フルオキセチン (プロザック)、フルボキサミン(ルボックス・デプロメール)、セルトラリン(ジェイゾロフト)パロキセチン(パキシル)など。
その他の抗うつ薬
三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、トラゾドン (デジレル・レスリン)、ミルナシプラン(トレドミン)
その他の向精神薬
抗てんかん薬=バルプロ酸ナトリウム(デパゲン)、抗不安薬=タンドスピロン(セディール)、抗認知症薬=ドネペジル(アリセプト)
制吐薬
メトクロプラミド(プリンペラン)・プロクロルペラジン(ノバミン)・プロメタジンなどのドーパミン受容体拮抗薬。
消化器用剤
ラニチジン、ファモチジン、クレボプリド、スルピリド、ドンペリドン、メトクロプラミド、イトプリド、オンダンセトロン、モサプリド。
抗ヒスタミン薬・抗アレルギー薬
シプロヘプタジンやジフェンヒドラミン、オキサトミド
血圧降下薬
マニジピン、ジルチアゼム、レセルピン、メチルドパ
抗がん剤
イホスファミド、カペシタビン、カルモフール、テガフール、フルオロウラシル
その他
ドロペリドール、フェンタニル、インターフェロン等の製剤
オピオイド 離脱
バルビツール酸 離脱
コカイン、大麻の離脱
アンフェタミンや興奮薬(コーヒーやタバコなど)
ベンゾジアゼピン・アルコールの離脱
膝蓋軟骨軟化症
セロトニン症候群など。
判別が必要な疾患
不安、焦燥、精神運動興奮、感覚障害、運動亢進症状を示す疾患、薬物による副作用はすべて鑑別の必要があります。
うつ、躁状態、不安、焦燥状態、パニック障害、精神病状態、精神運動興奮、心気状態などの精神
症状、抗うつ薬の副作用
遅発性ジスキネジアによる運動亢進や異常感覚、むずむず脚症候群(restless legs 症候群)、低血糖状態などです。
精神症状との鑑別
薬を飲み始めてから精神症状が悪化した場合、抗精神病薬や抗うつ薬なら元々の症状の悪化と鑑別しなくてはなりません。
新たに出現した精神症状と誤認される事は危険です。
症状が静座不能なのか不安・焦燥なのかを確認する必要があります。
アカシジアでは症状が歩行や運動によって軽減されますが、アカシジアではない精神症状による焦燥感、精神興奮、運動興奮の場合には、歩行で軽減される事はあまりありません。
また抗うつ薬による中枢神経刺激様症状をActivation syndrome(または stimulation syndrome)
といい抗うつ薬による自殺において注目されています。
activation syndrome とされている症状としては、不安、易刺激性、軽躁、焦燥、敵意、躁、パニック発作、衝動性、不眠、アカシジアがありますので、
薬剤誘発性のアカシジアも activation syndrome の一症状として注意を払う必要があります。
SSRI の処方が三環系抗うつ薬よりも一般的になっている現状では、activationsyndrome の 1 型としてのアカシジアも視野に入れる必要があります。
むずむず脚症候群との鑑別
むずむず脚症候群(restless legs )は夕方から夜にかけて、
足の深いところが「むずむずする」「虫が這うような」「ちくちく刺されるような」「ひっぱられるような」といった不快感が生じるもので、なかなか眠れず不眠の原因にもなる症状です。
この感覚は足を動かすと消失するので、むずむず脚症候群の方は足を動かしたり、曲げ伸ばしをしたり、こすったりするのでアカシジアと似た動きに見える場合があります。
症状が強いと夜中に何度も起き上がって歩き回ることもあります。
また薬剤誘発性アカシジアの方がむずむず脚症候群を併発している場合も多いですが、
むずむず脚症候群では足の異常感覚が一次症状としてあり、夜寝る前の眠気が出る時期に症状が出現し入眠しにくいといった特徴があるのに対して
アカシジアでは眠気と関係なく日中でも座っていたり寝ていたりじっとしていると症状が強くなり、運動への強い衝動が一次症状となります。
またアカシジアではむずむず脚症候群に比べて不眠への影響は少ないと考えられています。
遅発性ジスキネジアとの鑑別
遅発性ジスキネジアは抗精神薬は3カ月以上慢性的に使用した後に起こる不随意運動です。
口、頬、舌、下顎など顔周りに起こり、四肢や体幹に舞踏病様の不随意運動として出現する事もあります。
下肢や体幹に出現する遅発性ジスキネジアはアカシジアの静座不能と区別することが必要です。
本人は苦痛をアカシジアほどには訴えず、苦痛を軽減するために歩き回ることもありません。
また遅発性ジスキネジアで生じる運動は不随意運動ですが、
アカシジアの足を動かすなどの運動はは苦痛の軽減のための随意運動です。
非薬剤性のアカシジア
アカシジアは薬によるものだけでなく、脳炎、脳炎後パーキンソン症候群、パーキンソン病、両側前頭部の外傷といった中枢神経系の疾患でも出現します。
薬によらないアカシジアと薬によるアカシジアとの区別は、アカシジアの出現前に抗精神薬やアカシジアを出現させる薬を飲んでいた事実があるかや、
飲んだ時と発症時期や経過の間の時間的な関係を見る事で区別できます。
アカシジアの治療
薬剤誘発性アカシジアは、薬剤による副作用ですので、本来、その発現予防が
最も大切です。
まずは、抗精神薬が必要な場合には、非定型抗精神病薬を用いることです。
非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬に比べ、アカシジア発症のリスクが少ないからです。
アカシジアが出現した場合には可能な範囲で原因薬物の減量、変更を行います。
抗精神薬だと高力価、高用量の場合にアカシジアが出現しやすい為、非定型抗精神病薬の弱力価のものに変更するか、できるだけ減らします。
SSRI の場合日本で使われている全ての SSRI がアカシジアを引き起こす可能性をはらんでいます。
減量や変更が困難な場合や救急対応としては、対症的な薬物療法を行います。
中枢性抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)もしくはベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、クロナゼパム)の投与が有効と言われています。
しかしすでにベンゾジアゼピン系薬剤を服用し、アカシジアやむずむず脚症候群が生じている場合には、クロナゼパムなどはすでに依存の可能性があるため薦められていません。
ビタミンB6が神経遮断薬誘発性アカシジアの治療に有効であることが示す研究結果もあるようです。
中枢性抗コリン薬は一般にアカシジアの治療に用いることの多い薬剤でありますが
排尿障害、便秘、口渇などの身体症状、せん妄、記憶障害、認知障害などの精神症状の発現のリスクがあるため、安易に継続して用いるべきではないと考えられています。
欧米でも中枢性抗コリン薬の有効性は昔から認められていましたが、近年ではアカシジアに対する薬物療法としてはβ遮断薬が第一選択となっているようです。
β遮断薬の中では、脂溶性でかつ非選択的なプロプラノロールが中枢移行性に優れており、選択的なβ2遮断薬と比較しても有効性が高いと考えられています。
極度の不安を伴う場合にはベンゾジアゼピン系薬剤が有効ですがベンゾジアゼピン系薬剤も中枢性抗コリン薬と同じく
副作用や依存の危険があるため長期使用は危険と考えられています。
その他、薬剤誘発性の急性アカシジアに対する薬として、α2作動薬のクロニ ジン 、抗パーキンソン薬であるアマンタジン 、
セロトニンの前駆体である L-トリプトファン 、抗てんかん薬のバルプロ酸、MAO 阻害薬のモクロベ ミド(国内未発売)、
5HT2遮断薬のリタンセリン(国内未発売)、ビタミ ンB 6、鉄剤 、電気けいれん療法などがあります。
遅発性アカシジアの治療に関しては可能であれば急性アカシジアと同じく原因薬物の減量や中止を考えます。
第一世代の抗精神薬が使用されている場合には、第二世代の抗精神薬に変更するなどです。
急性アカシジアと異なり、中枢性抗コリン薬は効かないと考えられています。
逆に中枢性抗コリン薬が抗精神薬と併用されている場合には、中枢性抗コリン薬をやめる事で遅発性アカシジアが改善する事もあるようです。
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